最終回 ビジネス水準の向上とヴィーネクストの未来

基本的なマナーのこと

前回の最後に、ビジネスパーソンとしての水準向上を目指すための取り組みについて触れました。「ホウレンソウ」の考え方の浸透と、その中に「時間の感覚」をビジネス的に体得してもらう取り組みです。

スタート時、「ホウレンソウ」については、なかなか理解してもらえませんでした。
これは、基本的に上位者から下位者に対しての伝達や確認はあっても、下位者から上位者への質問や相談ということを概念的に持っていないという事が大きいのではないかと思いました。下記に、個別に例を挙げてみます。

報告:
ベトナム人の考え方として、報告を能動的に行う習慣があまりありません。基本的に上司・顧客が知りたいことがあるときは、聞いてくるものだと考えていますので、その時には答えます。チームリーダーなどで職責がある人であっても、何か問題が発生した場合に、それを報告するというくらいです。
問題がないならば、日常的に報告を行う必要があるとは考えていないのです。
日報・週報について教えたとき、当初、みんなの中に違和感がありました。「問題がなくても報告するの?」と感じていたのだと思います。

連絡:
日本では不思議に感じるかもしれませんが、ベトナムでは会社に遅刻しそうになっても連絡をしてくるということがあまりありません。
また、業務上でよくあるのは、同僚が離席中に顧客から連絡が入り、代わりに電話に出ても、その内容を担当者に伝えないという事例です。日本ではありえないことですが、ベトナムは本当に悪気なく普通の対応だと思っています。なぜならば、必要であれば顧客は担当者に再度連絡してくれると考えてしまうからです。また、伝言するということを、自分の仕事ではないと考えているということもあります。
仕事はチームで行って、顧客への対応も個人ではなく、会社として対応するのだということを伝えました。その上で、伝言などを受けた場合は、メールを送る・口頭で伝える、またはメモを残すことを習慣化するように、意識づけていきました。
(日本ではたくさん売られている伝言用のメモパッドや付箋などは、そもそもベトナムではほとんど見つけることができないのです。)

相談:
基本的に上司、顧客からの依頼に対しては、相当難しくても必死にやります。
例えば、やり方がわからない・技術的に不可能に近い・コストがかなりかかるということになっても、相談せずに一生懸命に取り組みます。しかし実際は、顧客からのオーダーは様々なバランスによって、そこまでやらなくても大丈夫ということが結構あります。
その考え方のギャップがあるため、費用対効果については徹底的に考え方を教えました。その上で、適正な落としどころを探る為に相談するのだということについて伝えました。
上司や顧客に、そういった相談ができることをみんなは、初めて知りました。

コミュニケーションのこと

名刺に関して、印象に残っている話があります。
ベトナムでは当時、名刺を持っている社会人は多くありません。持っているのはほとんど外資系、特に欧米系の会社の社員です。そのため、当時のメンバーは、自分の名刺を持つのが初めてでした。最初は、みんな自分自身が名刺を読める方向に持って渡しました。なぜそうしたかと聞いたところ、緊張のため、自分の名前・会社名などを忘れないように名刺を見ながら渡したと答えました。これは、元々名刺という存在が浸透していないので仕方がないかと、わたしは笑ってしまいました。

その他、コミュニケーションツールとして、メールやチャットは有効な手段として活用することになります。ここでも、綿密に教えることがいくつかありました。
当時のメンバーは、プライベートのメールならば書いた経験がありますが、ビジネスメールはほとんどありませんでした。また日本のビジネスメールには、独特の季節に関する挨拶や敬語の使い方などがあることも教えました。
また、目的によって構成が異なることがあります。もちろんすべては教えられませんが、一般的な常識と、いくつかのケースについて例文を提示して、勉強してもらいました。
これは、結果的にはOJTでの学習が一番身に付くようでした。
また、書いた文章でも、会話の内容でも同じですが、「自分が伝えたかったことが相手にちゃんと伝わったかどうか確認する」「相手が言ったことを自分がどのように理解したかをちゃんと確認する」この2点は徹底してもらいました。ベトナムに限らず、物理的な距離や時差、考え方や習慣が違うのですから、できる限り誤解を発生させないように、努力しなければなりません。
ヴィーネクストが発展していくための伝えなければならないと思ってきた2点を改めて、並べてみます。

(1)システム開発会社としての技術力の向上
(2)ビジネスパーソンとしての水準の向上

この2つの軸により、お客さまに寄り添ったシステム開発が行えていくと思っています。そして、ありがたいことにお客さまから、ヴィーネクストのメンバーのマナーが良いと言っていただけていることは、試行錯誤しながら、教育を続けてきて本当によかったと思えることです。

今後について

ヴィーネクスト設立してから8年が経ちました。様々な仕事で色々な経験をしましたし、やはり簡単な道ではありませんでした。

最後に、あるプロジェクトについて、お話ししてみたいと思います。

それは2011年、震災の後に起こりました。あの年は、様々な混乱が皆さんの周りでも発生したと思いますが、わたしたちが携わっているプロジェクトでも最後の最後に大きなトラブルが発覚しました。このプロジェクトは、震災の影響もあり、スケジュール変更などをヴィーネクスト側と調整しながら進めていました。
完了直前に起こったトラブルに関しては、全体的にはクライアント企業側での、準備や確認の不足が発端でしたので、進行として一か月ほどの遅れを覚悟しようとしていました。そんな時、日本側の状況に対してヴィーネクストのメンバーから、最大限の努力で対応したいという提案がありました。
事実、彼らは何日か徹夜の作業を行いました。ブリッジSEとしても非常に濃密な時間でした。部分的に出来上がって来るものを日本側ですぐ確認してフィードバックするという作業を短いサイクルで繰り返しました。この時間は、ベトナムと日本との物理的な距離や時差、考え方や習慣の違いを意識することなく、逆につながりが深いと感じるほどでした。無事に納品できた時には、お客さまに感謝の言葉をいただけましたし、ヴィーネクストのメンバーは、達成感と共に、お客さまに喜んでいただくという事を体感することができました。これは、お客さまとの繋がりや絆といったものの実感という事とも同じ意味合いかもしれません。
また、こういった「信頼の醸成」や「未来につながる安心」をお客さまに感じていただくという事と、ヴィーネクストのメンバーのモチベーション向上や心遣いのスキルアップは、相乗効果があるというのも、わたしが体験上感じていることです。

8年前、ヴィーネクストを立ち上げた当時には、コスト削減を第一の目的として、オフショアを利用した日本企業が多数ありました。しかしながら、2015年現在、ベトナム現地での人件費が少しずつ上がってきました。また、越日での、為替メリットも下がっています。
また、今後は日本での人財リソース不足を補うために、オフショアを選択するという割合も高くなると考えられます。
そうなると、オフショアでプロジェクトを受ける場合には、コストパフォーマンスが良いからという側面だけでなく、安心や信頼・気遣いといったような、サービス面でのパフォーマンスという側面が会社の存続の重要なキーワードになると思っています。

さらに、その先についても、いろいろなことが考えられます。日本の企業が、国内需要の伸び悩みの対策として、海外に活路を求めるということは、以前から増加傾向が続いています。
日本に向けたオフショアのみならず、日本企業のパートナーとして9000万人近くのベトナムローカル市場を開発していけるならば、とても大きなビジネスチャンスになるのではないかと夢も持っています。

今回、わたしが留学生として、日本に来たときからを振り返りました。この15年間に起こった自分の気持ちの変化や環境を改めて思い起こすことが、とてもよいきっかけとなり、これからの道にとても有意義につながっていくのだと思っています。

(了)