Vol.09 高僧来たる!新春説法ショー

着々と進む、高僧来たる!の準備

12月の後半、日本では、お正月に向けて、師走の慌ただしい雰囲気が漂う時期ですが、ミャンマーは、お正月が4月のため、元旦も特に休日ということはなく社会は平常運転です。
そんな12月も終わりにさしかかったある日のこと、家の裏手にある道路の両端に、写真の門のようなものが設置されているのに気付きました。

(お正月は4月だから、その準備ではなさそうだし、何かあるのかな?)

興味津々で見守っていると、日を追うごとに、門の他にも様々なものが増えていきました。
蛍光灯が道の上にアーチのように設置され、門の前には道を完全にふさぐ形で、ステージのようなものが出来ました。ステージの前にはたくさんのゴザが敷かれて観客席のようになり、道端にはカラフルな旗と共に、4人のお坊さんの写真ポスターが貼られました。物販と思われる金色の仏像が周囲に並び始め、炊き出しの準備と思われる炭火の七輪のようなものも設置され、雰囲気はさながら小さな野外ロックフェステイバルのようです。

ここまで準備が進むと、私にも理解出来ました。
おそらくこれは、『高僧来たる!新春説法ショー!』みたいなイベントだったのです。

説法ショーに潜入

説法ショー当日、自宅のあるコンドミニアム1階の駐車場に、ボンネットの前に旗をつけた大きな車が停まりました。

(ん?この旗は…お坊さんの写真と一緒に飾られていたのと同じもの!)

予想通り、えんじ色の袈裟を着たお坊さんが車から出てきます。周囲にいた人々が一斉に手を合わせました。
お坊さんが多くいるミャンマーでは、托鉢に来るお坊さんにお布施をして功徳を積むことが日常ですし、道を歩けば必ずお坊さんとすれ違います。
もちろんお坊さんは尊敬されていますが、皆、普通のお坊さんとすれ違う時には、特別立ち止まって手を合わせるような事はありません。

説法ショーに来た高僧は、お坊さんの中でも別格で、人間よりもブッダに近い存在として崇められているように、私には見えました。

「あれが今日説法するお坊さんだね。言葉は分からないけど、どんな感じか見に行ってみようよ!」と、私たちはステージの方に行ってみました。
受付にはお札が沢山入っている容れ物があったので、お布施を入れるのかな?と、お金を入れると、受付のミャンマー人が「こっちこっち」と前の方に案内してくれました。
言葉も分からないし、ちょっとだけ見て退散するつもりだったのですが、せっかくの好意を無にできずやむなく前方に座る私たち。すぐには退散しにくい感じです。
パックに入った食べ物と、紙カップに入った温かいコーヒーも渡され、高僧を待ちます。待っている間も、ステージにあるスピーカーからは、音楽のようなお経のような不思議な音が賑やかに流れています。

隣に座っていたお婆さんからは、「これを羽織りなさい」と、ストールを渡されました。そういえば、寺院では短いスカートや肌を露出した服装は禁止です。私は、ひざ丈ノースリーブのワンピースを着ていたので、その格好はお坊さんに失礼だよ、という事なのだと理解し、お婆さんが貸してくれたストールで全身を覆いました。

さて、しばらくして、さきほどの高僧の登場です。音楽と共に、白い傘やミャンマー文字が書いてある団扇を持ったお付きの人に前後を挟まれて、観客席中央の通路をステージに向かって高僧が歩きます。
席の人々は、一斉に高僧の方を向き、頭を垂れたり手を合わせたりし始めました。高僧が移動するのに合わせて人々の体と視線も動き、ここにいる人々が高僧をとても尊敬しているのが伝わってきました。

日本もミャンマーと同じ仏教の国であり、お坊さんもいますが、こんな光景は見た事がありません。今自分達は、異国にいるんだと改めて感じた瞬間でした。
ふと、この様子を写真に残したいな、と思いましたが、寺院ではスマートフォンでパチパチ記念撮影するミャンマー人が、誰も写真を撮っていません。
私たちも周囲の雰囲気に圧倒され、ただただ高僧に手を合わせました。

年末年始は高僧の繁忙期?

ステージ中央の椅子に高僧が座り、説法が始まってすぐに、息子がウトウトし始めたため、そっと説法ショーからおいとましました。

それもそのはず、説法が始まったのは20時過ぎ!説法が終わったのは22時近いのではないでしょうか。
説法が終わった後も、音楽やお経のような音がスピーカーから爆音で一晩中流れていて、9階にある自宅にもしっかり聞こえてくるのです。内容はありがたいお話なのでしょうが、ロックフェス並みの大音量で、その晩は眠れませんでした。

高僧を迎える時の厳かな雰囲気と、爆音のギャップに、別の意味で、ここは異国なんだな、と感じたのでした。

ちなみに、ポスターの高僧は4人。まだステージは片付けられる様子はありません。
そう、この「高僧来たる!新春説法ショー」は、4DAYSだったのです!
夜通しの爆音も4日間続き、その期間中は睡眠不足に悩まされたのでした。

ところで、説法ショーでもらったパックの中身は、黒いもち米に、すりごまとココナッツが添えてあり、ほんのり塩味で美味しかったです。
この説法ショーを主催する人が用意し、来る人に振る舞うものなのだそうです。

この時期、ヤンゴン市内では、同じような高僧のポスターと高僧を迎えるための門をいたるところで見かけました。

日本の師走は、師(お坊さん)も走ると言いますが、新暦の年末年始はミャンマーのお坊さんにとっても、お坊さんを迎える人々にとっても、忙しい時期なのだな、と思っていたら、こういったイベントは2ヶ月に1回くらい行われているそうです。近所で開催された時は、もちろん聞きに行きますよ!と社員も話していました。高僧の中には、海外まで説法をしに行く方もいらっしゃるのだそうです。
ミャンマーの高僧は、師走だけでなく一年中走り回る人たちだったのでした。