Vol.08 生きとし生けるものは皆愛しいミャンマー人

ミャンマーにはない言葉

日本では、駅前の街路樹などに鳥が大量に集まり、糞や鳴き声などの被害をもたらしているため、その対応に苦慮しているという話をよく耳にします。
いわゆる『鳥害』というものです。鳥害をもたらす鳥は『害鳥(がいちょう)』と呼ばれ、代表的なものにはムクドリやカラス、ハトなどがいます。
ハトは平和の象徴と言われていますし、鳥がエサをついばむ様子などはとっても可愛いのですが、野生の生き物と人間が共存するのは、現代日本社会にとってなかなか難しい側面もあるのです。

写真のものはなんだと思いますか?
稲穂を束にしたものを、街路樹にくくりつけてあります。これは一体何のためのものなのか、さっぱり分からなかった私は、またもや写真を撮って社員に聞いてみました。すると「これは、鳥が食べるためのものです」という答えが返ってきました。市街地にいる鳥は、大体害鳥だと思っていた私にとっては驚きの答えです。
思わず「何のためにそんなことするの?あっ、もしかして捕まえて食べるとか?」と聞き返すと、「食べたりしません。特別な理由はないけれど、鳥が可愛いからですよ」と、なぜ私が驚いているのか分からないという表情です。
ミャンマーの人々にとって、鳥は可愛いからエサをあげるもの。歩道にハトが大量にいるな〜と思っていたら、お米がまいてあったこともあります。たまたま、お米がこぼれてしまったのではなく、ハトにあげるためにまいたのでしょう。

もちろん、鳥が集まりますから糞や鳴き声などはありますが、ミャンマー人はそれほど気にしていないようです。
実は、現在のオフィスへ引っ越した当時、天井裏にハトが住みついていました。ハトの糞での健康被害や音などが気になり、業者さんに調べてもらったところ、ハトは30羽ほど、そのほかに卵やベイビーもいます、との報告がありました。
大家さんに相談したのですが、なぜ我々がハトを気にするのか理解できない様子でした。それでも、ハトをなんとかしたいと訴えると、「それでは、ハトのベイビーと卵は、別の場所に移動してあげれば良いね」と、なんともハトに優しいお言葉。

『鳥害』や『害鳥』という言葉は、ミャンマーでは、その概念も言葉もないんだろうな、とつくづく感じました。

日本では害鳥と言われてしまうようなたくさんの鳥たちでも、ミャンマーでは、美味しいエサをもらって人々と共存しているのです。
背景には、仏教の教えで殺生を好まないこと、そして、生き物に施すと、自分にも良いことがあるという考えがあるのではないかと思っています。

生き物と共存する世界

大量にいるのは鳥だけではありません。ミャンマーの道を歩いていてすぐに気づくのは、驚くほどの野良犬の多さです。
ヤンゴンに住む友人のお子さんが、自宅から学校までの徒歩10分ほどの間に、何匹野良犬がいるか数えてみたことがあったそうです。その数、驚きの33匹。

ミャンマーに来たばかりの頃は、あまりの野良犬の数に驚き、恐怖すら覚えました。
知人に冗談半分で「赤ちゃんの足って美味しそうだから、犬にガブッと噛まれちゃいそうですよね」と言われたことがあり、息子をガブッとやられてなるものかと緊張しながら道を歩いたこともありました。
しかし、数メートルおきに野良犬がいるので、いちいち緊張しながら歩いていると心が持たないし、大概の野良犬は昼寝しているかトコトコ散歩しているかで、あまり怖がらなくても大丈夫ということが分かったので、今は必要以上に気にしないことにしています。

たまに行く近所の食堂でも、野良犬が外から入ってきて椅子の下をウロウロしていますが、周囲のミャンマー人は、誰ひとりとして野良犬を気にしている様子はありません。
子犬が生まれると、家の中に入れて可愛がったり、外にスペースを作ってあげたり、アパートの階段などで世話しているような光景もよく見かけます。
野良猫もたくさんいますし、野良ニワトリもたまに見かけます。ミャンマーの人々は、これらの生き物たちとも、ごくごく自然に共存しているように見えます。この国の人は、生きとし生けるものはだいたい可愛いのだな、と思うのでした。

ただし、例外もあります。日本人も大嫌いなGで始まる黒い虫、これはミャンマー人も苦手なようです。暑くて湿度が高い国なので、日本にいる時よりも多く見かけますが、ミャンマー人も毎回キャーキャー言って殺虫剤を取りに走っています。

ミャンマー流、慈悲の心で狂犬病対策

野良犬やその他の野良動物とも共存しているミャンマーですが、気をつけなくてはならないこともあります。
ミャンマーの野良犬は400万匹以上いると言われており、その多くは、当然狂犬病の予防接種などは施されていません。そのため、狂犬病を持った野良犬に噛まれて命を落とす人が年間1000人以上いるそうです。
夫と私がミャンマーに渡る前には、もちろん狂犬病の予防接種を受けました。

ミャンマー政府は、この事態を重く受け止め、毒の入った餌をまくなどして、野良犬の殺処分を行っているそうですが、毒餌をまかれた周辺の住民が、犬をかわいそうに思って家にかくまったりするため、この対策はあまり効果が出ていないそうです。

最近では、インターネットを通じてワクチン代の寄付を募り、野良犬に予防接種を施す取り組みをしている獣医師さんがいるという話を聞きました。
ワクチン代は1匹あたり日本円で70円ほど。タクシーの初乗りが150円のミャンマーでは、決して安いとは言えません。しかし、この取り組みに賛同した人は6万人を超え、獣医師さんは毎週末、仲間と一緒に狂犬病のワクチンをしに出かけているそうです。
また、お坊さんが暮らす僧院では、野良犬に餌を与えるなどして保護していることが多く、僧院とも協力してこの取り組みを進めているのだそうです。
人だけでなく、動物にも優しいミャンマーの人々には、毒の餌よりもこういった取り組みの方が合っているような気がします。

我々はミャンマーに住ませてもらっている身、「ここにいる動物達との共存の仕方を考えていかなくては」と思いつつも、野良犬の脇はそーっと歩き、ハトの糞をせっせと掃除するTHE日本人な私なのでした。